VE(バリューエンジニアリング)とは?
手法や事例を分かりやすく解説

VEは、製造の資材部門で調達費の削減を目指すことをきっかけに、日本で導入されました。その後、新製品開発や企画、設計、製造業、建築業など幅広い業種や業界、サービスで活用されています。この記事ではVEを実現する際に念頭に置いておくべき原則や手法、ステップを解説します。VEを検討している方はぜひ参考にしてみてください。

 VE(バリューエンジニアリング)とは? 

VE(バリューエンジニアリング)とは? 

VE(Value Engineering:バリューエンジニアリング)は、アメリカ国防省では「最低限のライフ・サイクルコストで、必要な機能を確実に達成するために、製品やサービスの機能的研究に注ぐ企業努力」と定義されています。簡単にいうと、少ないコストで十分な機能の達成を目指す手法のことです。

VEは1947年にアメリカGE社によって開発されました。第二次世界大戦中に入手困難となっていたアスベストという素材の代わりに、アスベストよりも低価格でありながら、火災時の延焼を防ぐといった性能は大きく変わらない素材に目を付けたのがきっかけです。材料や部品の「機能性」を追求すれば、代用品であっても機能性と価値を落とさずにコストダウンができると分かったのです。

VEが注目される理由

幅広い業界でVEが採用されている背景の1つとして、顧客争奪が挙げられます。類似のサービスや商品であふれ、企業の価格競争が激しい昨今、単に低価格なもので差別化を図るのは困難です。価格を安くすることはもちろん、そのうえで顧客のニーズを満たせる商品・サービスを提供することが重要になっています。従って、VEは顧客に提供する商品・サービスの価値向上には欠かせない手法であるといえます。

CD(コストダウン)との違い

VEと似た用語にCD(コストダウン)がありますが、2つの用語は品質維持の点で違いがあります。CDは機能や品質を下げてコストを削減するのに対し、VEは品質を担保しつつコストを削減する手法です。単にコストを下げて提供のしやすさを図っているわけでないため、CDよりも実行が難しいといえるでしょう。

 VE(バリューエンジニアリング)の手法

VE(バリューエンジニアリング)の手法

VEは品質を保ちながらコストを削減する手法であると解説しましたが、実際には何を指標として、どのようにVEの達成を図るのでしょうか。ここではVEの手法について紹介します。

VEにおける価値は以下の式によって求められます。

価値 = 機能 ÷ コスト

VEにおいて商品・サービスの価値を高める方法は、主に以下4つの方法があるといわれています。

手法[ 1 ] コストを維持しつつ、機能を向上させる
手法[ 2 ] コストを削減しつつ、機能は維持する
手法[ 3 ] コストを削減し、機能を向上させる
手法[ 4 ] コストを上げて、機能を大きく向上させる

(VEにおける機能、コストと価値の関係性)

上記の表から分かるとおり、VEでは機能が下がることはありません。なぜなら、機能を下げることは価値の降格(CD)になるためです。

さらに、VEを実施するときに行動指針として念頭に置いておきたいのが、VEの基本原則です。

VEの基本原則

使用者優先の原則

常に使用者の立場に立って考える

機能本位の原則

果たすべき機能を追求し、機能本位に考える

創造による変更の原則

アイデアや工夫により、よりよい方法を考え改善する

チームデザインの原則

メンバーの知識・技術を結集し、チーム活動で改善を行う

価値向上の原則

機能とコストを徹底的に追求し価値向上を図る

要するに、VEでは商品やサービスの価値を顧客ファーストで考え、それらの商品をできる限り低価格で提供するよう努めなければならないということです。常にこの点に留意しておくと、VEの視点からずれることはないともいえるでしょう。

また、VEの取り組みにおいて組織はメンバー一人ひとりの知見を集約してアイデアを出し合い、商品・サービスの価値向上を実現していくことが大切です。

 VE(バリューエンジニアリング)の手順と進め方

VE(バリューエンジニアリング)の手順と進め方

次に、どのような手順でVEを進めていくのかを解説します。VEの実施手順は大きく3つの基本ステップと10の詳細ステップ、VE質問から構成されます。

(VEの実施手順)


3つの基本ステップ

まず、VEは大きく分けて3つの基本ステップで進めます。
 

【ステップ1:機能定義(分解)】
顧客が求める価値を知るために情報を収集し、必要とされている機能の定義を整理する
 

【ステップ2:機能評価(分析)】
機能それぞれにかかるコストを分析し、VEを行う対象の機能分野を選定する
 

【ステップ3:代替案作成(創造)】
機能に対する改善案のアイデア出しを行う


10の詳細ステップとVE質問

次に、3つの基本ステップを軸として10の詳細ステップと質問から細かく段階に分けてVEの課題にフォーカスします。
 

【ステップ1:VE対象の情報収集「それは何か」】
ここでは、商品やサービスといった対象のテーマについてチームで共通理解を持ちます。たとえば1つの商品でも、商品の製造や営業、管理など、担当している役割によって情報や知識に偏りがあるでしょう。VEを効率的に進めるためにも、チーム全体で特有情報や問題点を把握するようにしましょう。
 

【ステップ2:機能の定義「その働きは何か」】
対象がどのような働き・役割・目的を果たすのか、機能の定義付けを行います。定義付けの際は、シンプルに整理するために名詞と動詞の関係から「~を~する」の文に当てはめて考えるとよいでしょう。たとえばライターの機能は、「熱を出す」といったように考えます。
 

【ステップ3:機能の整理「その働きは何か」】
定義付けを行った機能に対し、「何のために」という視点から「目的と手段」の関係で整理し、機能系統図を作成しましょう。
 

【ステップ4:機能別コスト分析「そのコストはいくらか」】
特定の機能を確実に果たすために現状で必要なコストを算出します。たとえば、電子レンジが対象のものを温める機能を確実に果たすためには、温めるための電力を作るのにどのくらいのコストが必要かを算出します。
 

【ステップ5:機能の評価「その価値はどうか」】
特定の機能を確実に果たすために必要な最小のコスト(機能評価値)を設定しましょう。機能分野ごとに、いくらのコストを目指すかの目標値を明らかにします。
 

【ステップ6:対象分野の選定「その価値はどうか」】
現状価値が低く、コスト削減の余地がある分野を優先して選定します。価値改善をすべき分野の優先順位を「価値の程度(機能評価値 ÷ 現行コスト)」と「コスト低減余地(現行コスト - 機能評価値)」の視点から決定します。
 

【ステップ7:アイデア発想「ほかに同じ働きをするものはないか」】
代替案として「ほかに同じ働きをするものはないか」という問いを使って、機能達成ができる新しいアイデアを出します。
このとき、できるだけ自由に多くのアイデアを出すために、ステップ3で作成した機能系統図を活用しながら、複数人で意見を交わす「ブレーンストーミング」をするとよいでしょう。
 

【ステップ8:概略評価「そのコストはいくらか・それは必要な機能を確実に果たすか」】
ステップ7で出たアイデアの実現が、技術的・コスト的に可能であるか判断します。
 

【ステップ9:具体化「そのコストはいくらか・それは必要な機能を確実に果たすか」】
ステップ8で評価されたアイデアを組み合わせ、「利点・欠点分析→欠点の克服→洗練化」のサイクルによって価値の向上を図ります。アイデアを評価する際は収束思考を持ち、1つの結論に落とし込むように努めるとよいでしょう。対して、改善策を練ったりアイデアを発想したりするときは発散思考を用いるとより効率的な洗練化が期待できます。
 

【ステップ10:詳細評価「そのコストはいくらか・それは必要な機能を確実に果たすか」】
複数ある代替案を技術面・コスト面から評価し、実施の優先順位を決定しましょう。
 

VEは以上のステップを経て、実現させていきます。

 VE(バリューエンジニアリング)の効果

VE(バリューエンジニアリング)の効果

VEの実現には多くの工程を踏むため、それなりの企業努力が必要ですが、その分技術が向上したり、商品が低価格で購入できたりと企業と顧客の双方に大きなメリットと効果があります。

また、求められる機能を追求して開発した商品・サービスが顧客の満足度を高めれば、企業への愛着や信頼につながります。顧客からの愛着や信頼を資産化できれば、顧客は優良顧客になり、企業にとって強い味方となります。優良顧客は購入割合を高めるだけでなく、口コミの拡散も行い、新規顧客獲得の一助にもなってくれるのです。

 VE(バリューエンジニアリング)の事例

VE(バリューエンジニアリング)の事例

私たちに身近なVEの事例としてどのようなものが挙げられるのでしょうか。VEを実現させた例の1つに信号機があります。

もともと、信号機で使用されていた電球は、見えにくいうえにコストがかかることが課題でした。そこで、以下のように目的と機能を整理したのです。

・VEの目的:設置費用やランニングコストをトータルで削減すること
・信号機の機能:色を伝えること
 

これらを踏まえ、ランプをLEDに変更してコスト削減を実現させました。

改善前

改善後

設置費用が高額

組み立てコストが安くなり、設置費用が削減された

電球が切れたときの交換費用がかかる

LEDは寿命が長く、交換頻度が下がった

点灯状態が見えにくい

光の特性により点灯状態が見えやすくなった

電気代が高い

使用電力が少ないため、電気代が80%削減された

信号機のVEは5原則の面から見ると、どのような影響をもたらしたのでしょうか。

VEの5原則

信号機の具体例

使用者優先の原則

・利用者が信号機の光を識別しやすくなった

・設置費用が下がり、自治体が設置をしやすくなった

機能本位の原則

色を伝える手段としてランプと色のフィルターが使われていた

創造による変更の原則

光を発する機能を持つものは、電球だけでなく、LEDや蛍光体、プラズマなどがある

チームデザインの原則

サービスマン、電気工学、機械工学、人間工学、製造など幅広い分野の専門の考えを集約させた

価値向上の原則

トータルコストを削減し、機能を向上させた

このように、VEは原則に従っているか当てはめて確認すると、よりアイデアが具体化され実現しやすいでしょう。

 VE(バリューエンジニアリング)の注意点

VE(バリューエンジニアリング)の注意点

VEは単にコストダウンを行うものではないため、いくつか注意すべきことがあります。注意点は以下のとおりです。

・求められる機能を衰えさせていないか
・VEの5原則、手法、手順に沿っているか

機能面の品質が下がるとコストダウンになり、そもそもVEの定義として当てはまりません。また、VEは簡単にアイデアが浮かんでスムーズに実現されるわけではないため、現状打破できる点はどこにあるのか、また代替案はどのようなものが考えられるのか、常に幅広く情報を収集することが大切です。

 まとめ

まとめ

ここまで、VE実現のために押さえておくべき手法や手順について解説してきました。VEを実現するにはさまざまな視点から多くの情報を収集しなくてはなりません。そうでなければアイデアの取捨選択が難化し、取り組みが一向に進まない状況に陥る恐れもあります。アイデアを極限まで洗練化させ、価値の向上を目指すのであれば、チーム内の情報だけでなく社内外の専門家からも積極的に情報を収集することが大切です。

東京ビッグサイト、インテックス大阪、ポートメッセなごや、マリンメッセ福岡で開催される「ものづくりワールド」は、さまざまな部品や装置、製品の企業が出展し、コストダウンや機能向上に関するアイデアが見つかる場です。そのなかでも、構成展の1つである「機械要素技術展」では、機械部品や加工技術などの世界中のサプライヤーが出展します。

VEのヒントになる情報を得たい方、実際に企業の事例が気になる方は、ぜひ一度展示会に足を運んでみてはいかがでしょうか。また、来場だけでなく展示会への出展も受け付けております。気になる方は、お気軽にお問い合わせください。

●ものづくりワールドの出展・来場に関する情報はこちら


 執筆者プロフィール

 池内 晴菜
 株式会社ファン・マーケティングに入社後、幅広い領域のコンテンツ制作を行う。
 不動産やマーケティング、フェムテック領域にまつわる記事の執筆や編集を主に担当。


▼この記事をSNSでシェアする