スマートファクトリーとは?
意味や目的、事例について分かりやすく解説

「スマートファクトリー」という言葉をご存じでしょうか。聞いたことはあるけれど、意味はよく分からないという方のほうが多いかもしれません。少子高齢化によるリソース不足や技術の伝承問題が懸念されている日本において、ものづくり業界におけるスマートファクトリー化の推進は重要な課題です。この記事では、スマートファクトリーの目的や事例について詳しく解説します。

 スマートファクトリーとは

スマートファクトリーとは

スマートファクトリーとは簡単にいうと、AIやIoTといった最新技術を用いてデータ管理を行い、生産性や品質の向上を図る先進的な工場のことです。2010年に出版された書籍である『スマート・ファクトリー 戦略的「工場マネジメント」の処方箋』(著書:清威人氏が)で初めて「スマートファクトリー」という表現が用いられ、工場のネットワーク化が提唱されことから、言葉や概念が日本国内に広まりました。

 スマートファクトリーとDX、FAとの違い

スマートファクトリーとDX、FAとの違い

スマートファクトリーと似た用語に「DX」や「FA」があります。それぞれが異なるものという認識よりも、DXやFAを推進した先にスマートファクトリーがあるイメージを持つほうが適正でしょう。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、企業がデジタル技術や膨大なデータを活用して業務プロセスや組織、企業のあり方を見直し、競合優位性を高める改善をしていくことです。

FA(ファクトリーオートメーション)とは、工場における生産過程を自動化するシステムのことをいいます。一般的には部品の組み立てや加工、運搬、管理といった業務が自動化されます。

(スマートファクトリーのイメージ)

 スマートファクトリーの目的は7つ

スマートファクトリーの目的は7つ

世界的に技術革新が進むなか、日本のグローバル競争⼒を強化するにはものづくりのスマート化を先んじて実現することが重要であるとして、経済産業省は2017年5月31日に、「スマートファクトリーロードマップ」を公表しました。

ロードマップではスマート化への7つの目的が示され、ものづくり企業はものづくりの未来に向けた戦略課題への対応が求められます。それぞれの目的には1~4までの段階があり、達成レベルが確認できるようになっています。ロードマップに示されるスマートファクトリーを推進する7つの目的は、以下のとおりです。

・品質の向上
・コストの削減
・生産性の向上
・製品化・量産化の期間短縮
・人材不足・育成への対応
・新たな付加価値の提供・提供価値の向上
・その他(リスク管理の強化)

品質の向上

作業空間に設置したセンサーから得たデータを活用して、製品の品質向上を図ります。簡単にいうと、不良品やミスの発生率を減らしたり、製品の質にばらつきが出ないよう均一化を図ったりして、製品自体の改善を目指します。

コストの削減

「材料の使⽤量」「生産のためのリソース」「在庫」「設備の管理・監視」といったコストの削減を図る取り組みです。データを収集・解析することでコスト削減可能な資源やプロセスを発見し、無駄を減らします。

生産性の向上

生産性を向上させるために「設備・ヒトの稼働率の向上」「ヒトの作業の効率化、作業の削減・負担軽減」「設備の故障に伴う稼動停⽌の削減」に取り組みます。設備にセンサーを取り付けて全体のプロセスを進捗管理したり、ヒトの動きやデータを蓄積させたりして、人的な作業負担を減らし、業務全体の作業効率を向上させます。加えて、ロボットに収集させた設備のデータから事前に設備故障に関する予測を立てることで、故障時の被害を最小限に抑えたりもします。

製品化・量産化の期間短縮

「製品の開発・設計の自動化」「仕様変更への対応の迅速化」「生産ラインの設計・構築の短縮化」を行うことを目的としています。製品設計の自動化やシミュレーターを活用することにより、短期間でさまざまな構造モデルを作成したり、生産ラインを効率的に運用したりします。

人材不足・育成への対応

「多様な人材の活用」「技能の継承」に取り組みます。各従業員の適性を計測・データ化して、適切な人事配置を行い、優れた技術を持つ人を分析してロボットに学習させることで技術の継承を図ります。

新たな付加価値の提供・提供価値の向上

価値の提供・向上を目指す目的として、「多⽤なニーズへの対応⼒の向上」「提供可能な加工技術の拡大」「新たな製品・サービスの提供」「製品の性能・機能の向上」が挙げられます。複数の部品に共通する部分を明らかにして生産プロセスを共通化したり、生産過程の計画を最適化したりして、ニーズに合わせた製品・サービスの提供を目指します。

その他(リスク管理の強化)

上記で挙げた6つの目的以外に、スマートファクトリーにはリスク管理の強化という目的があります。製品生産のプロセスに通信機器を導入してデータを蓄積することで、不具合の原因を特定・改善し、早期対応を目指します。

●経済産業省「スマートファクトリーロードマップ」について詳しくはこちら

 スマートファクトリーのメリット・デメリット

スマートファクトリーのメリット・デメリット

スマートファクトリーの意味や目的について説明してきましたが、ここからはスマートファクトリーのメリット・デメリットを解説します。

メリット

スマートファクトリー化は、生産性と品質の向上・技術継承の容易化・リソース不足の解消・リスクの低減につながるのがメリットです。また、AIを人の代わりやサポートとして導入すれば、初期費用や時間はかかるものの、長い目で見るとコストの削減にもつながるでしょう。なぜなら、作業の無駄を省いて生産工数を最適化し、不良品やミスの発生が減るとその分費用も時間も削減されるためです。

デメリット

センサーをはじめとする設備の導入にかかる初期コストが高いことが、スマートファクトリー化のデメリットです。

工場や事業の規模、既存設備にもよりますが、費用は数十万で抑えられることもあれば、数億円かかることもあります。加えて、導入した設備を使いこなすための人材教育や採用が伴うと、それに充てる時間と費用もさらに必要となります。

上記で挙げたメリットとデメリットを踏まえ、費用対効果を考えると、工場によっては導入のハードルが高いと感じることもあるかもしれません。いきなり大規模な変革を行うと、費用はもちろん、現場で働く従業員にも大きな負担がかかる恐れがあるため、まずは小さなところから始めてみるのもよいでしょう。スマートファクトリー化を進める際は、どのような課題をどう改善させたいかの目的を明確化させ、投資できる費用を考慮したうえで検討してみてください。

 スマートファクトリーの事例

スマートファクトリーの事例

スマートファクトリー化はここ数年でさまざまな企業が取り組んでおり、経済産業省が発表している「製造基盤白書(ものづくり白書)」によると、デジタル技術を活用している企業は2020年で54.0%、2021年で67.2%と増加傾向にあります。※

(デジタル技術活用状況のグラフ)

ここでは、多くの企業で取り組まれるスマートファクトリー化の事例をご紹介します。

事例1:金型加工会社の例

6年間赤字が続いた金型会社が、人材不足・育成の目的で技術伝承を効率化すべく、デジタルイノベーションの推進を行いました。技術伝承は人から人へ行う場合には数十年かかりますが、人からAIへと行うことで、効率的に精度の高い製品を作れるようになります。また、見積りの作成で必要な情報収集にAIを活用し、半日かかっていた作業時間が大幅に短縮されました。以上の変革により、約1年で黒字に回復する成果が得られた事例です。

事例2:化学品メーカー(自動車製品)の例

自動車エアバッグを製造する工場が、生産性向上の目的で画像解析システムを導入し、スマートファクトリー化した事例です。画像データから「人・設備・材料」の3つを解析することで、製品や作業工程における不具合の早期発見につながり、効率的に品質の高い製品の製造が可能になったといいます。さらに、作業員の動線分析を行い、人員や設備配置が最適化されたメリットも得られました。

事例3:自動車部品メーカーの例

自動車部品を製造する工場が、生産性向上の目的で製造ラインを可視化するモニタリングシステムを自社開発して導入しました。製品の生産サイクルタイムを可視化させたことにより、時間のかかる作業の原因やスタッフごとのばらつきの発見・改善に注力できるようになりました。

 スマートファクトリー化に活用できる補助金

スマートファクトリー化に活用できる補助金

工場のスマートファクトリー化には、時間と費用がかかりますが、費用面での負担を軽減するための補助金制度が存在します。2つ取り上げてご紹介します。

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金は、下記を目的とし設備投資を支援してくれる制度です。日本国内に本社および事業を持つ中小企業や特定の事業者、特定非営利活動法人を対象とし、付加価値や給与に関する要件を満たす場合に適用されます。

<引用>
生産性向上に取り組む中小企業・小規模事業者の設備投資、IT導入、国内外の販路開拓、事業承継・引継ぎを補助し、切れ目なく継続的に、成長投資の加速化と事業環境変化への対応を支援すること
引用:経済産業省

ものづくり等高度連携・事業再構築促進補助金

ものづくり等高度連携・事業再構築推進補助金は、下記を目的とし設備投資を支援する制度で、複数の中小企業・小規模事業者が連携してプロジェクトに取り組む際に適用される補助金です。1者のみでの申請はできないため注意しましょう。

<引用>
複数の中小企業等が連携し、連携体全体として新たな付加価値の創造や生産性向上を図るプロジェクト、新分野、業態転換、革新的な製品・サービス開発、生産プロセス等の改善に取り組むプロジェクトについて、その経費の一部を支援することを通じて、中小企業等の経済構造転換及び生産性向上を実現すること
引用:一般法人低炭素投資促進機構

これらの補助金制度を利用すれば、ものづくりにおけるスマートファクトリー化を目的とした設備の導入費用を抑えられるでしょう。補助金制度は上記の2つ以外にも複数あります。制度によって対象や利用条件が異なるため、自分の企業が制度の対象かどうか、詳細を確認して利用を検討してみてください。

●中小企業庁のものづくり補助金について詳しくはこちら

 まとめ

まとめ

ここまで、スマートファクトリーの意味や目的、事例などをお伝えしてきました。スマートファクトリー化を推進することで、各企業が抱えているリソース不足や技術の後継問題の改善、また生産性・品質の向上やリスクの低減など、さまざまなメリットが期待できます。

東京ビッグサイト、インテックス大阪、ポートメッセなごや、マリンメッセ福岡で開催される「ものづくりワールド」は、スマートファクトリー化を進める企業や情報が一挙に集結する展示会です。そのなかでも、構成展の1つである「製造業DX展」では、製造現場や工場内でのDXを推進するIT製品やサービスが出展します。

スマートファクトリーに関する情報を得たい方や他企業の事例が気になる方は、ぜひ一度展示会に足を運んでみてはいかがでしょうか。出展希望企業も受け付け中ですので、気になる方はお気軽にお問い合わせください。

●展示会の詳細はこちら

※出典:「ものづくり基盤技術の振興施策」、経済産業省

(最終確認:2024年5月9日)


 執筆者プロフィール

 池内 晴菜
 株式会社ファン・マーケティングに入社後、幅広い領域のコンテンツ制作を行う。
 不動産やマーケティング、フェムテック領域にまつわる記事の執筆や編集を主に担当。


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