製造業でのイノベーションを生む最重要技術の1つ、
「アディティブマニュファクチャリング」
近年、あらゆる業界の製造業において、従来通りのQCD(品質、コスト、納期)改善とは異なる切り口からの価値向上が求められるようになってきました。製品の提供を通じて、ユーザーの豊かさや成長をいかにして支え、抱える課題を解決するための貢献ができるのか。作り手目線からよりよい製品を作り届けるだけでなく、使い手目線からも製品やサービスの再定義が求められています。こうした時代の要請に応える際に有効な生産手法の1つが「アディティブマニュファクチャリング(AM)」です。切削や切断など、従来主流だった基本的加工技術とはまったく異なるアプローチに基づいた生産技術のことです。AMは、モノづくりの基本コンセプトを革新し、これまでの製造業とは異なる切り口からQCDを再定義できる可能性を秘めています。ここでは、アディティブマニュファクチャリングについて、技術のコンセプトから具体的加工手段、適用効果が大きな応用先や「デジタルトランスフォーメーション(DX)」との融合によって進む製造業のイノベーションなどまで解説します。
RX Japan株式会社では、日本最大級の製造業の展示会「ものづくり ワールド」を東京で行うほか、大阪・名古屋・九州でも開催しております。その中でも、構成展の一つである「次世代3Dプリンタ展」では、アディティブ・マニュファクチャリング、3Dプリンタ、材料、受託造形サービスなど、AM、3Dプリント技術に関する製品が数多く出展します。
製造業の最先端事例が学べるセミナーも開催しています。取り組みの最前線の動きを知るため、足を運んでみてはいかがでしょうか?また、来場だけでなく展示会への出展も受け付けております。気になる方は、お気軽にお問い合わせください。
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足し算のモノづくり「アディティブマニュファクチャリング(AM)」とは
足し算のモノづくり「アディティブマニュファクチャリング(AM)」とは
“引き算のモノづくり”が主流だった、これまでの製造業
みなさんは、「製造業での生産工程を思い浮かべてください」と問われたら、どのような場面を想像するでしょうか。電子部品などを基板上に載せて電子機器を作ったり、ボディフレームにドア部材やエンジンなどを組み込んで自動車を作ったりしている様子を頭の中に描く人が多いのではないでしょうか。テレビのニュース報道で流される映像や社会の教科書の挿絵に使われる写真にはそうした場面が使われることが多く、一般的なイメージはそうしたものであるように思えます。その一方で、旋盤やボール盤などの加工機を利用して、部品を作っている様子を想像する人もいることでしょう。ただし一般的には、日常生活の中では比較的目にすることが少ないように思います。こうした場面を思い浮かべる人は、製造業に従事または精通した人かもしれません。
工業製品のサプライチェーン全体を俯瞰した場合、電子機器や自動車の組み立てなどの部品を組み合わせる作業は、最終段階に近い一部の生産工程だと言えます。そして一般に、こうした組み立て工程で利用する部品・材料を生産する工程やそれを担う企業は、より多くあります。例えば、特に裾野が広い産業と呼ばれる自動車産業では、組立作業を行う自動車メーカー1社が、数千社~数万社のサプライヤから部品などを調達して製品である自動車を組み立てています。サプライチェーン内の工程総数や携わっている企業の数から見れば、製造業の重心は組み立て工程よりも、むしろ切削などによる部品の生産の領域にあると言えるのではないでしょうか(図1)。
図1 製造業の大多数が、切削などによる部品生産だった
出所:筆者が作成
組立工程では、指定された順に、所定の場所に決められた部品を逐次組み込んでいく言わば“足し算のモノづくり”を行っています。こうした生産手法は、「加法製造もしくは付加製造(アディティブマニュファクチャリング:AM)」と呼ばれています。一方、部品の製造では、AMに基づいて作っているモノも一部ありますが、大部分は大きな材料の塊から切断・切削して作る“引き算のモノづくり”によって作られています。こうした生産手法は、「減法製造もしくは除去製造(サブストラクティブ・マニュファクチャリング:SM)」と呼ばれます。
ちなみに、射出やプレスなど、AMにもSMにも属さない部品生産手法も存在します。ただし一般に、これらを適用する際に不可欠な金型はSMに基づいて加工され、その金型作りが部品生産のQCD(品質・コスト・納期)の鍵を握っています。このため、従来の部品生産に適用されていた手法の多くは、“引き算のモノづくり”であるSMが中心であると言えます。
部品生産での競争原理を一変させた3Dプリンターの衝撃
これまで部品生産に携わっていた企業では、いかにSMを効率的かつ効果的に行い、高品質な部品を迅速かつ低コストで生産するかを競い合っていました。そして、他社では生産できない難加工形状・難加工材の部品を作ることができれば、競合の少ない高い競争力を持つビジネスを展開できました。ただし、こうした競争は、常にSMに基づいて部品を生産することを前提にしていたことに変わりありませんでした。
ところが、こうした部品生産での競争原理が一変する革新的技術が登場してきました。それが、AMに基づく技術である「3Dプリンター」です。
3Dプリンターとは、コンピュータ上で描いた“モノ”の形状データを、忠実に立体物として作り出すことができる装置のことです。1980年代に最初の商用3Dプリンターが登場し、その後、製品の試作への応用を端緒として徐々に利用が広がり、2010年代以降には工業製品の生産の一部にも活用されるようになりました。3Dプリンターは、樹脂などの材料を、形状データを参照しながら少しずつ逐次付け足していくことで、任意の大きな形状の部品を造形することができます。生産手法の分類からすれば、まぎれもなくAMに分類される生産手法であり、部品生産に広く導入可能な新コンセプトの加工法です。部品生産に適用する際、AMは「積層造形法」と呼ばれる場合もあります。
“足し算のモノづくり”が、製造業にもたらす新たな価値
部品生産の手法として適用する場合のAMとSMそれぞれの特徴をまとめると以下のようになります(図2)。
図2 AMとSMの特徴の比較
出所:筆者が作成
まず、造形手法に注目すると、AMでは材料を積み上げて目的物を作り上げるのに対し、SMでは材料を削ったり切断することで作り上げます。AMでは必要な分量の材料だけを使用するため廃棄物が少ない傾向があります。これに対し、SMでは削られた部分が廃棄物として出てきます。つまり、一般にAMの方が環境にやさしい製造手法となり、本質的には省資源化や低コスト化に向く手法だと言えます。ただし、これはAMを実践するための技術・装置・利用法が十分成熟した理想的な場合であり、技術が発展途上の段階では、SMの方が環境面やコスト面などでのメリットが大きい場合もあります。
また、造形対象となる目的物を設計する際の自由度が大きく異なります。AMでは複雑な形状や内部構造の作成が可能です。これに対し、SMでは、工具の取り回しや強度などの制約により、一部の複雑な形状の作成が困難です。このため、複雑な形状の部品を作り上げる際には、造形可能な状態になるまで全体を分割して加工する必要があります。設計の自由度が増せば、性能を理想的に高め、コストを削減するための工夫を盛り込み易くなります。
さらに、現時点では適用可能な材料が異なります。AMでは、現時点では樹脂と金属を材料にした部品加工への適用が中心となります。ただし、近年はセラミックスやガラス、食用の材料なども利用できるようになってきました。適用可能な材料はこれからも増えていく可能性が高いと言えます。これに対しSMは、金属、樹脂、木材をはじめとする既存の材料の多くを対象にできます。ただし、材料が脆く加工中に破損しやすい、高精度で高効率な加工に適した工具がないといった理由で、難加工材となる材料もあります。こうした難加工材では、AMの方がむしろ加工しやすいという例も出てきています。
現時点のAMによる加工は、SMによるものよりも造形物の精度が低く、それが原因で適用先が制限される傾向があります。また、加工に要する時間もAMの方がSMよりも長くなるのが普通です。これら、AMの欠点は、技術的未成熟に起因している部分が多く、これから飛躍的に改善していく可能性があります。
部品の生産手法としてのAMとSMは、それぞれ長所と短所があり、多くの場合、製品開発や製造のさまざまな場面で、目的に応じて使い分けることになります。
特徴の異なる7種類のAM技術
特徴の異なる7種類のAM技術
多様なAM技術が提案され、既に実用化が始まっている
AMには、SMでは得られない多くのメリットがあります。製造業の部品生産に適用すれば、複雑形状の実現による性能向上や軽量化、金型不要での造形が可能になり、多品種少量生産への対応や開発から量産までのリードタイムの短縮などといった効果が得られます。こうしたメリットを生かして、製造業の部品生産などで、技術の発展・成熟とともに広く利用されるようになりました。
AM関連の国際規格では、具体的技術を7つに分類
AMに基づく多様な造形・加工技術が提案され、実際に活用されています。AMの品質保証に関する国際規格である「ISO/ASTM 52900」では、AMに基づく具体的な加工技術を、「液相光重合」「粉末床溶融結合」「結合剤噴射」「材料噴射」「指向性エネルギー堆積」「シート積層」「材料押出し」の7つに分類しています(図3)。それぞれについて、簡単に紹介します。
図3「ISO/ASTM 52900」で定義された7つのAMの加工技術
出所:筆者が作成
液槽光重合 (Vat Photo Polymerization:VPP)では、液体の光硬化性樹脂を使用し、そこに紫外線やレーザーなどの光を照射して硬化させて目的物の2D断面形状を形成。それを1層ずつ積み上げて3D形状を造形していきます。
粉末床溶融結合 (Powder Bed Fusion:PBF)では、金属や樹脂の粉末を敷き詰めた平坦面に、レーザー光や電子ビームなどを選択的に照射し、溶融・焼結させることで、目的物の2D断面形状を形成。それを1層ずつ積み上げて3D形状を造形していきます。金属3Dプリンターで主流となっている技術であり、「選択的レーザー焼結(SLS)」や「直接金属レーザー焼結(DMLS)」と呼ばれる技術は、PBFの具体例です。
結合剤噴射 (Binder Jetting)では、粉末状の材料の上に結合剤の液滴を噴射して粉末を結合させて2D断面層を形成。それを1層ずつ積み上げて3D形状を造形します。樹脂や金属、セラミック、砂など多様な材料を利用して造形可能な点が特徴です。出来上がった造形物は、機械的特性を向上させるため、結合剤の追加や焼結などの後処理が行われることがよくあります。
材料噴射 (Material Jetting )は、液体状の光硬化樹脂またはワックス状の物質の液滴を噴射して、紫外線などで硬化させて2D断面層を形成する技術です。身近なところで利用しているインクジェットプリンターに最も似た原理で動作します。異なる材料を組み合わせて造形できる特長があり、複合的な材料による造形や色付けした造形などが可能です。
指向性エネルギー堆積 (Directed Energy Deposition:DED)は、金属粉末や金属ワイヤーを供給しながら、レーザー光や電子ビームなどで溶融・堆積させて、大きな粘土模型を小さな粘土を継ぎ足しながら全体造形するのと同様の方法で造形していく技術です。一般にこの技術での造形精度はそれほど高くなく、通常は必要な公差を得るために機械加工を併用することになります。ただし、付け足し造形ができるため、損傷した部品の修復などに利用することも可能な利点があります。
シート積層 (Sheet Lamination)は、シート状の薄い材料を積層して、接着や溶接などによって結合させて3D形状を造形する技術です。金属、紙、樹脂または複合材料を使った造形が可能です。積層する各層の輪郭は機械加工によって形成します。比較的安価に実践できる技術ですが、高精度の部品加工にはあまり向いていません。
材料押出 (Material Extrusion)は、材料をノズルから押し出しながら、造形物を形成する技術です。この技術では、多くの場合、熱可塑性樹脂(ABS、ナイロン、PEEK、PLAなど)を利用しますが、さまざまな材料を使った造形に利用可能なメリットがあります。また、ペースト状の材料を加工できるため、コンクリートやセラミックでの造形、チョコレートやパン生地などの食品にも適用可能です。
AM適用が進む産業と、そこに見る効果的活用法
AM適用が進む産業と、そこに見る効果的活用法
試作から量産へ、AMの適用効果が大きな産業とは
AMは、現代の産業界では欠かせないモノづくりの手法のひとつとなっています。設計データを直ちに忠実に具現化できる特長を生かして、まずは設計後の試作や意匠デザインの確認などを中心に広く利用されるようになりました。
さらに現在では、機能・特徴・適性の異なる多様なAM技術が実用化。従来加工法に対するAM活用のメリットが明確になってきたことで、最終製品を構成する部品の生産にも利用されるようになりました(図4)。ここでは、そうした適用例の中から、AMの特長が際立つ具体例をいくつか紹介します。
図4 航空宇宙、自動車、医療機器などでAMを効果的に活用
航空宇宙産業での事例:軽量化と高剛性化を両立する部品を製作
意外に感じる方もいるかもしれませんが、AMを積極活用する代表的な産業として、航空宇宙産業が挙がります。航空宇宙産業で利用が広がっている理由は、AMを使えば、軽量化と高剛性化を両立させた、これまで加工できなかった形状の部品を制作できるからです。航空機や人工衛星などを構成する部品は、過酷で大きな負荷が掛かる環境で利用することが想定されます。同時に、重力に逆らって大空へ大きな物体を飛ばすには、軽量化も最優先で考える必要があります。軽量化と高剛性化の探求は、この業界にとっての永遠の仮題となっています。
AMでは、3D CADで描いた設計データの形状を忠実に再現することが可能です。切削加工などSMを中心とした加工法では、工具の取り回しが難しいとか、材料の加工が困難といった理由で、設計は可能だが加工できない形状がありました。現在、航空宇宙業界では、SMを前提に部品設計してきた人間の設計者の常識を打ち破る発想で、軽量化と高剛性化を徹底追求した形状の部品をコンピュータで自動設計するようになりました。こうした自動設計の手法は、「ジェネレーティブ・デザイン」と呼ばれています。そして、ジェネレーティブ・デザインでは、従来加工法では実現できないが要求仕様はキッチリと満たす設計をすることが多く、AMとの相性がよい技術となっています。また、従来ならば、分割して加工した部品を組み立てて構成していた大きな部品を、AMを利用して継ぎ目なく完成した状態をそのまま加工できるようにもなります。この点も高剛性化に効果があります。
たとえば、Masten Space Systems社は、ロケット・エンジンの製作にAMを活用しています。またBoeing社は、新型エンジン「GE9X」にAMを利用して製作した300点以上の部品を、Airbus社は「A350 WXB」にAMで製作した客室内の部品やチタン製構造部品を搭載しています。それぞれ、ジェネレーティブ・デザインなどを適用して中空構造などを巧妙に盛り込むことで、軽量化・高剛性化を図ると共に、部品点数の削減も実現しています。
自動車産業での事例:復刻部品などの製作に適用
AMは、切削加工など従来の部品加工法とはアプローチが大きく異なる技術であり、現時点で豊富な利用実績があるわけではありません。このため、信頼性や品質面などの観点から最終製品に搭載する部品として採用しにくいのではと考える人は一定数います。しかし、実際には信頼性や品質面での要求が極めて厳しい自動車業界でもAMを活用した部品生産が導入されています。
自動車産業では、開発段階での試作品の製作ではAMを広く利用しています。それだけでなく、最終製品の部品を生産する例も出てきています。Porsche社は、フラッグシップ・モデルである「Porsche 911 GT2RS」のエンジンの製作にAMを適用しました。これによって、従来の部品加工法に比べてエンジン重量を約10%軽くしながら、出力を30馬力向上させることに成功しています。一方、トヨタ自動車は過去に販売したクルマの部品を供給する「GRヘリテージパーツプロジェクト」の中で、既に販売を終了している「A70スープラ」や「トヨタGT2000」の補修部品をAMで製作することで復刻しました。
現在、自動車のメンテナンスや修理をする際、部品の取り寄せなどに長い時間を要したり、場合によっては廃番になって修理不能だったりする場合もあります。これからは、ディーラーでAMを使って必要な部品を用意して即時対応する時代がやってくるかもしれません。同様のメンテナンス領域への導入効果は、産業機器など多品種でありながら生産台数が少ない機器でより際立ってくる可能性があります。
医療機器産業での事例:個々の患者にパーソナライズした医療器具を製作
医療機器産業もAMの活用が活発な産業です。医療機器の中には、体型やケガ・病気の状況が異なる患者を対象にして、医療器具をパーソナライズして用意する場合があります。迅速に個別対応した医療器具を製作できるAMの適用効果が大きな分野となっています。
義手や義足、さらには人工関節、ステントなどをAMで制作する例が増えています。規格化された製品を利用する場合に比べて、患者ごとにパーソナライズできるため、フィット感や見た目を最適化することができます。これによって、患者の生活の質を高めることが可能になりました。また、歯科でのインプラントや矯正用マウスピースの製作をAMで行う例も増えてきています。
少し変った利用法として、AMを使って手術をする患者の臓器モデルを作製し、手術のシミュレーションに使用する例も出てきています。CTやMRIの画像データを利用すれば、患部の状態を3D模型で再現できます。これを外科医が利用すれば、手術前に詳細な計画を立てることが可能になり、手術のリスク軽減と時間短縮が可能になります。
技術と応用の進化の本番はこれから、AMの未来
技術と応用の進化の本番はこれから、AMの未来
AMの応用は始まったばかり
AMを活用すれば、これまでの加工法を適用したのでは実現できないような機能・性能を持つ部品や新たな製造業ビジネスを創出できる可能性があります。ただし、AMの技術自体が発展途上であるため、その潜在能力に見合った多様な応用分野を開拓できているわけではありません。さらなる技術開発に大きな期待が掛けられています。ここでは、AMを実践するための技術がどのような方向へと進化しつつあるのか紹介します。
まずは、部品生産に利用可能な材料をさらに多様化させていくための技術開発が進められています。当初の3Dプリンターは、樹脂材料の使用を前提とした技術から発展し始めました。これが現在では、金属材料の利用も当たり前になってきました。樹脂では、植物性由来のPLA(ポリ乳酸)、高強度で耐久性も高いABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、柔軟性が高いTPU(熱可塑性ポリウレタン)、耐摩耗性と耐久性に優れたナイロンなど多様な材料を利用できるようになっています。また金属材料も、耐食性と強度が高いステンレス鋼、軽量で高強度なチタン合金、軽量で追加加工しやすいアルミニウム合金、高温環境下でも高強度なインコネル(ニッケル基超合金)などを利用できます。さらにセラミック材料やガラス材料、コンクリート、複合材料やリサイクル素材なども利用可能になってきています。今後もさらに利用可能な材料の種類は増えてくることでしょう。
図5 セラミックスやコンクリートなどを利用したAMも可能に
設計や後処理との自動的な連携も進行中
また、AMに基づく3Dプリンターなど造形装置自体の進化も急激に進んでいます。進化の論点として、造形精度や表面品質の向上、造形速度の向上、造形可能な部品の大型化、多重構造の造形への対応などが進められています。
さらに、部品を造形した後に、表面処理や追加加工などのAMとは異なる手法の加工を後処理として行うことはよくあります。こうした異なる加工法を自動的・連続的に実行する装置や、連携の最適化による生産性向上などを図る例も出てきています。逆に、ジェネレーティブ・デザインをはじめとする設計工程との連携を密にして、設計から生産、後処理までを一貫して実行するソリューションの開発も進められています。
製造業での適用先の急拡大を見据えて、標準化が加速
発展途上の新たな生産手法であるAMは、将来の適用領域が拡大していくことを見据えて、ISO(国際標準化機構)やASTM International(米国試験材料協会)によって、さまざまな側面から規格の標準化が進められています。ISOだけでも、AM関連の規格が180以上発行されています。
例えば、産業用AMの製造プロセスおよび製造サイトに対する要求事項を規定した「ISO/ASTM 52920:2023」と呼ぶ規格もあります。この規格には、AMに基づく製造の受注から、造形データの準備、原材料管理、造形、後加工、検査、梱包、出荷に至るプロセスチェーンと製造環境が、顧客要求に対して品質保証できる状態であるための要求事項が規定されています。
まとめ
まとめ
米国のバイデン政権は、「Additive Manufacturing Forward(AM Forward)」と呼ぶプログラムを立ち上げ、米国の中小製造業者(SME)の競争力を高めることを目的とした施策を推し進めています。大手製造業者と中小サプライヤの間での自発的協定によるAM関連技術の導入を支援しています。AMの実践に向けた技術の進化と適用先の拡大は、製造業での製品のあり方とビジネスモデル、業界構造の再定義が求められるほどのインパクトを与える可能性があるからです。
もちろん、こうしたインパクトは、米国だけにとどまるものではありません。慣れ親しんだ従来加工法の利用を前提に、製品やビジネスを生み出す方が、安心感があり、足下のビジネスに適用しやすいと考える人もいるかもしれません。ですが、未来を見据えれば、今時点からAMを積極導入し、新たな価値を生み出す製品やビジネスを生み出す取り組みを進めた方が得策な領域は多いのではないでしょうか。
RX Japan株式会社では、日本最大級の製造業の展示会「ものづくり ワールド」を東京で行うほか、大阪・名古屋・九州でも開催しております。IT、DX製品、部品、設備、装置、計測製品などが出展し、製造業の設計開発、製造、生産技術、情報システム部門の第一線で活躍する方々が集います。開発・製造期間の短縮、DX・IT化の推進、コストダウン、脱炭素、工場の省エネ・自動化など製造業の課題を解決するアイデアが見つかる絶好の場となります。
展示会場では、製造業の最先端事例や設計開発の最前線の話題が学べる併催セミナーも開催しています。また、来場だけでなく展示会への出展も受け付けております。気になる方は、お気軽にお問い合わせください。
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執筆者プロフィール
伊藤 元昭
富士通株式会社にて、半導体エンジニアとして、宇宙開発事業団(現JAXA)の委託による人工衛星用耐放射線半導体デバイスの開発に従事。日経BP社にて、日経マイクロデバイスおよび日経エレクトロニクスの記者、副編集長、日経BP半導体リサーチの編集長を歴任。
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